据え物の心得

雪譜行動の年、明けましてお目出とうございます。
心機一転、懈怠(けだい)の眠りを醒(さ)まし、我見の妄執を払って、新たなる息吹に燃え精進することを三宝様の御宝前に誓おうではないか。

剣豪・宮本武蔵は晩年、九州熊本の細川越中守のもとに身を寄せていた。そんなある日、越中守が武蔵に尋ねた。
「細川の家中で、一体誰が一番侍らしい侍であろうか」
殿様なら、一門の統領として一番よく分かっているはずのことが、実はなかなか分からないものである。そこで剣の達人・武蔵の目を借りて、それを知ろうとしたのである。
戦場に出て敵の首をとった豪の武者は、細川家中にも大勢いた。
ところが武蔵は、強者(つわもの)として名をはせた武士の名前を一人も挙げない。武蔵が名を挙げたのは、都甲太兵衛(とこうたへい)という、名もない足軽風情の下級武士であった。
「宮本武蔵に聞いたら、この細川家中で一番侍らしい侍はお前だという。あの武蔵ほどの者がいうからには、お前はよほど何かしでかしたことがあるに相違ない。日頃どのような覚悟で仕えているか、それを申せ」
と殿様が彼に聞いた。
ところが都甲太兵衛は、「それがしは、何もこれといってしでかしたことはございません」の一点張り。しかし殿様の執拗な追求にとうとう答えて言うに、
「武道と申しても何一つしでかしたことはございませんが、私は『据(す)え物の心得』と申すことにふと気づいて、その工夫を常々忘れませんでした。人は据え物で、いつでも討(う)たれるものじゃと思い、それを平気で討たれる心持ちになるのでございます。
最初は、ややもすれば据え物じゃということを忘れてなりませんでした。それから据え物じゃということを不断に心得ておりまして、それが怖くてなりませんでした。しかし、だんだん工夫しておりますうちに、据え物じゃと存じていてそれが何ともなくなりました。まことにたわいないことを申して」と。
いつ討たれても、いつ斬られても、グーともスーとも言わぬ、それが『据え物の心得』である。

同じくは法華経のために、只今臨終の覚悟を忘れたくないものである。


大乗山 持経寺住職  丸岡雄道・著『麻畝の性 巻頭言  第一聚』より(禁無断複製転載)
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